INDOPEPSHYCHICSから紡がれた日本のエレクトロニック・ミュージックの一端 No.3「青木孝允と高木正勝がSILICOMとして作品を発表した2000年頃のエレクトロニカ」

第2回目ではPROGRESSIVE FOrMを立ち上げる大元になったユニット<INDOPEPSHYCHICS>の活動がHip Hopからエレクトロニックに変遷していった流れから、SILICOMとして作品を発表する青木 孝允(AOKI takamasa)と高木 正勝との出会いまでを紹介しました。
2000年、ちょうど21世紀の始まった年、時代は俗に言うエレクトロニカの全盛期でした。
一例ですが、エレクトロニカとは電子音楽の中でも特に芸術性や実験性を重視し、多様なサウンドを取り入れた包括的な音楽のジャンル。クラブで踊ることを主目的としたEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)とは異なり、自宅やヘッドホンでじっくり聴くことを意識した、アンビエントでダウンテンポな楽曲が多く含まれるのが特徴。
定義:包括的な「電子音楽」の総称
1)広義の定義: 厳密なジャンル名というより、シンセサイザーやサンプラー、ドラムマシンなどを用いた広範な電子音楽全体を指す言葉。
2)狭義の定義: 主に1990年代以降、UKを中心に発展した、芸術性やリスニング体験を重視した電子音楽を指すことが多いです。
IDM(インテリジェント・ダンス・ミュージック)とほぼ同義で使われることもあります。
音楽性の特徴
1)多様な音響とテクスチャ: シンセサイザーやサンプラーを駆使し、さまざまな質感や音色を生み出します。デジタルなノイズ(グリッチ、クリックなど)や、実験的な音響が積極的に取り入れられることも特徴。
2)アンビエントな雰囲気: テクノやハウスのような反復的なビートに比べ、より瞑想的で落ち着いた雰囲気を持ちます。リスナーを包み込むような、環境音楽的な要素が強いのも特徴。
3)複雑で創造的なリズム: ドラムパターンは単純な反復ではなく、複雑で多様なリズムが展開されます。サンプリングやモジュレーション(変調)も多用されます。
4)生楽器との融合: 生のギター、ピアノ、ストリングス、ボーカルなどのアコースティックな要素を電子音と融合させる手法もよく見られます。
5)ダウンテンポ志向: クラブ向けのダンスミュージックよりもゆったりとしたBPM(拍数)の楽曲が多く、チルアウト系の音楽とも近接しています。
エレクトロニカに分類されるサブジャンル
1)IDM(インテリジェント・ダンス・ミュージック): 知的な要素や実験性、複雑なリズムを特徴とし、ダンスよりもリスニングに特化した電子音楽です。
2)フォークトロニカ: アコースティックなフォーク音楽の要素と電子音を組み合わせたジャンルです。
3)グリッチ: ノイズやデジタル機器の不具合音を意図的に音楽に取り入れたジャンルです。
4)ダウンテンポ / チルアウト: リラックスした雰囲気の、ゆったりとしたテンポの電子音楽です。
代表的なアーティストの一例。
エレクトロニカは、その包括的な性質から、幅広いアーティストが影響を受けています。
◆ Aphex Twin(エイフェックス・ツイン、Richard David James)
◆ Autechre(オウテカ、Rob Brown and Sean Booth)
◆ Boards of Canada(ボーズ・オブ・カナダ、Mike Sandison and Marcus Eoin)
◆ Pole(ポール、Stefan Betke)
◆ Fennesz(フェネス、christian fennesz)
◆ Monolake(モノレイク、Robert Henke)
ここで2000年頃にリリースされた上述6組の作品を選んでみました。
1)Aphex Twin「Windowlicker」(1999/WARP)
ユーモアのセンスも魅力かつポップと狂気の交差。
2)Autechre「Inhake 2」from EP『Peel Session』(1999/WARP)
ブレイクビーツの影響が感じられます。
3)Boards of Canada「In A Beautiful Place Out In The Country」(2000/WARP)
タイトなビートに美的で浮遊感あるコードとメロディー、そしてヴォコーダーなど独自のノスタルジック感や幻想的かつ牧歌性などが特徴。
4)POLE「Karussel」from『3』(2000/PIAS German)
元々Basic Channelが運営するカッティング・スタジオDubplates & Masteringのマスタリング・エンジニアでもあったダブ/ミニマル/音響系テクノの鬼才PoleことStefan Betkeが発表した「青」「赤」「黄色」のジャケットに彩られた3部作「1」(1998)「2」(1999)「3」(2000)。
5)Fennesz「Endless Summer」(2001/mego)
オーストリア出身のギタリスト兼作曲家クリスチャン・フェネスが2001年にリリースした傑作アルバム「Endless Summer」のタイトル曲。グリッチノイズとギターなど生楽器のアコースティック・サウンドを融合させ見事なまでの美しさを描いた本曲は、エレクトロニカ史においても重要な楽曲の1つであり、後に広がりを見せたフォークトロニカの先駆的な楽曲としても有名。
6)Monolake「Fragile」from『Gravity』(2000/Field)
音楽ソフトウェアAbleton Liveの共同開発者でもあるRobert B. HenkeのプロジェクトMonolakeによるアルバムから。
話しの流れで少しINDOPEPSYCHICSにも触れます。
実はMonolakeことRobertとは親交があり、2001年にRobertが来日した際には当時渋谷にあった土井さん(D.O.I.)のスタジオに彼を呼び、1曲制作しました。
INDOPEPSYCHICS & Robert Henke「sah~」(2001/PROGRESSIVE FOrM)
https://www.youtube.com/watch?v=DXTtX8-Jq4M
合わせ日本ランドで第2回目のMETAMORPHOSEが開催された際の映像。https://ja.wikipedia.org/wiki/METAMORPHOSE
因みにDJ KenseiとSILICOM(青木 孝允&高木 正勝)も出演しています。
Monolake (Robert Henke) Live at METAMORPHOSE 2001, Nihon Land
https://www.youtube.com/watch?v=6GkxFPsJmp8
また上述のPOLEが率いたベルリンの~scapeレーベルからサンフランシスコのkit claytonが「Nek Sanalet」を1999年にリリースしたことで、佐々木敦と原雅明によるHEADZが主催して表参道のCayで開催された~scapeのレーベルイベントでPOLEとkit claytonが来日し、同じく土井さん(D.O.I.)のスタジオでkit Claytonと制作した曲。
INDOPEPSYCHICS & Kit Crayton「Phasor」(2001/PROGRESSIVE FOrM)
https://www.youtube.com/watch?v=10isXy8sZu0
これは本当余談ですが、kitが「富士山に行きたい」との事で空き日に車で5号目まで連れて行ってあげたのは僕です笑
そして海外アーティストのコラボは実は第3弾まであり、これも当時親交のあったJan Jelinekとの共作。
INDOPEPSYCHICS & Jan Jelineck「moxa」(2002/PROGRESSIVE FOrM)
https://www.youtube.com/watch?v=u6FqiwjOn_I
Jan Jelineckと言えば、Kitと同じく~scapeから発表した不朽の名作にも触れなければいけません。
Jan Jelineck「Drift」from『Loop-finding-jazz-records』(2001/~scape)
第3回の締め括りとして、エレクトロニカのサウンドに傾倒していた1990年代後半のbjörkにも触れておきたい。
やはり感性が鋭いというか、早い時期からそのエッセンスを取り入れていた事が伺えるのと同時に、ヨーロッパにはこうした最新のサウンドがきちんとポップスの中にも自然に馴染んでいる事が、ダンスミュージックも含めた文化的背景にもあると感じます。
björk「hyperballad」(1995)
björk「jóga」(1997)
Björk「All is Full of Love」(1999)
4回目では、SILICOMに触れたいと思います。
2025/10/02 nik c/o PROGRESSIVE FOrM