声が届かないままの夜に
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都市にいると、誰かとつながっているはずなのに、
なぜか一人きりのような感覚になる夜がある。
明かりはそこかしこに灯っていて、
道路には車が走り続けているのに、
音だけが自分のいる場所とは別のところを通り抜けていく。
人と人のあいだにある距離は、
物理的な距離ではなく、
認識と認識のあいだに生まれるものなのだと思う。
すぐ隣にいても、
思っていることは伝わらないことがある。
言葉が届かないまま、
ただ夜が深くなっていく。
最近、そんな夜に読み返している本がある。
『声の網』 星新一 https://amzn.to/3Lw0Pkv
この本は未来の話のようでいて、
実は今の私たちのことを書いているようにも感じる。
人はつながりを求めながら、
つながりが「本当のものかどうか」を疑い続けている。
声は届いているはずなのに、
心には届かないことがある。
けれど、
それでも私たちは声を発する。
自分の存在を、世界にそっと置いておきたいのだと思う。
誰かに届くかどうかはわからなくても。
今日も都市は静かに音を流している。
その音に混ざるように、
小さな声をひとつだけ置いておく。
聞こえているのに、届いていない。
そのあいだで揺れている時間が、
とても人間的だと思う。
